これは炎上するんじゃないの?と思ったら案の定。

前回取り上げたルミナー・テクノロジーズ公式YouTubeチャンネルの最新動画ではルミナーが提唱するプロアクティブセーフティーについて、潜在的顧客であるテスラやアウディの車両とルミナー製品のLiDARを搭載したレクサスのテスト車両とを比較することによりアピールしていました。念のためもう一度貼っておきましょう。

内容を簡単に説明すると、テスラ・モデルX、そしてアウディA5はいずれもテスト用の歩行者人形の衝突を回避するため自動ブレーキを作動させることができず、安全に停止できるのはルミナーLiDAR搭載車両のレクサスRXだけだった、というものでした。確かにこれをそのまま受け入れるとするとルミナーの技術力が圧勝、という結論になるでしょう。

しかし、今日の段階でこの動画についたコメントの数々、そしてTwitterでも動画を引用して語られている内容はほぼ炎上と言って差し支えない様子で、ルミナーとしてもこの状況を放置しておかないほうが良さそうに思われます。

他のテストとは結果が違う

まずはルミナーのテストに対する反証として挙げられているのがこちらの動画で、ユーロNCAPが2019年に実施した内容になります。

というわけでこちらの動画ではなんの問題もなく同じテスラのモデルXが60km/hのスピードから歩行者を検知してAEB作動させていますし、衝突もせず安全に止まっていますが・・・。

EURO NCAPではテスラのシステムが歩行者の手前で衝突回避
自転車の横断もブレーキで衝突回避

ユーロNCAPが実施した上記AEBテストではルミナーのテストのように歩行者人形4activePAくんが跳ね飛ばされることもなく、安全性が証明されているように見えます。ただしこちらのような結果も。

レーンキープはやや微妙な結果

特に左上の画像でわかるとおり、レーンサポートシステムはセンターラインに寄りすぎてしまい、若干の不安定さを露呈しています。また、路肩に停まった2台の乗用車の向こう側から歩行者が飛び出してくるという仕掛けに対しても弱さを見せました。レーンサポートの不安定およびテストコースでの意図的な障害で衝突事故の確率が急増するのはAAAも発表した通り

25km/hでは回避、30km/hでは7歳児(のモデル)に衝突

テストドライバーは意図的に衝突させた???

もうひとつの疑惑が、テスラとアウディを運転していたドライバーが意図的にアクセルを踏み込み減速できなくしていたというものです。テスラの該当シーンはこちら。

56km/hで衝突、となっているがドライバーの右足に注目

YouTubeのコメントにはこのシーンで減速しているテスラがドライバーの意図的な加速で停止できなくなった、これは詐欺マーケティングだ!というものがいくつもありました。そこで何十回も再生して検証してみました。わたしがLAZR贔屓なのは多少仕方がないとして、なるべく客観的に考えてみます。

まず、減速中にドライバーの右足が動いており、意図的に減速させないようアクセルペダルを踏んだという疑惑についてですが、映像に見えているペダルはブレーキで、確かに衝突寸前にドライバーの足はぐっと前に出ていますが、この写真にあるようにブレーキが踏み込まれる様子が映し出されていて、アクセルペダル自体は全く確認できません。わたしはテスラに限らずAEBが作動する車両に乗ったことがないためわからないのですが、自動ブレーキが作動したときはブレーキペダルも自動で動くのでしょうか???どなたかご存知でしたら教えていただきたいです。それから通常自動車を運転する際アクセルを操作するのは右足の先だけで膝を押し出すように力を入れる必要はなく、脚全体が前に踏み込むように動作するのはブレーキングの時だけです。脚の力を使ってアクセルペダルを踏むと細かい動作ができないからで、たとえアクセル全開にしたとしても膝を使って踏み込む必要はありません。ブレーキングではなぜ踏み込む動作が起こるのですか?それはブレーキのほうがアクセルペダルよりもやや手前にあるので、奥にあるアクセルを離してからブレーキペダルに引っかからないように一度足をじゅうぶん手前に引き、脚を使ってブレーキペダルを押し出すように踏むことになるからです。

もう一点、スピードメーターを見ているとテスラの減速のスピードは一定で、ドライバーが意図的にアクセルを踏んで止めないようにしているとすればあまりにも動きがスムーズ過ぎると思われます。これをたった一度のテストで行うのはちょっと無理があると考えられますから、このシーンを撮るために何度も何度も自動ブレーキに合わせて減速しながら止めさせないという高度なアクセル操作を行ったことになり、そこまでして欺くような動画を作る必要があったのか甚だ疑問です。

テスラが歩行者に衝突したのはルミナーの意図的な工作だとする批判について答えを出すとすれば、おそらく56km/hもの高速で歩行者人形と激突する衝撃を軽減させようと思わずブレーキを踏んでしまったのではないかと推測します。この人形は衝突時のダメージを軽減するため柔らかい素材でできてはいますが、60キロ近い速度で正面衝突すればテストカーにどんどんダメージが発生してあっというまにボロボロになってしまうのではないでしょうか。

それにしても、このような疑惑に対して誤解を招いてしまったとも言えるルミナー・テクノロジーズは適切な説明をする必要があるのではないかと思います。もし仮にですよ、この動画が意図的に事実を曲げて制作されていたとすれば、誰かがコメントしていたようにニコラのトレバー・ミルトンに匹敵するとんでもない詐欺マーケティングになってしまい、LAZRに投資している投資家はおそらく莫大な損失を被ることになるでしょう。

また出た新しい映像、ルミナーの作戦?

では疑惑から一旦離れまして、もうひとつあれ?と思ったことがあるので書いておきます。それはこのシーン。

オースティン・ラッセル登場(このデザインのサングラスは似合わない)

出ました若き大富豪、オースティン・ラッセル。彼は「事故を防ぐための責任は自動車メーカーにあり、ごくわずかな可能性も防ぐよう努力する必要がある」と語ります。続いて出てくるのはこのシーン。

Mazda CX-5

なんといきなりマツダですか???自動車メーカーこそが事故を防ぐ努力をする必要がある→マツダが映るというこの流れ、いったいどういうことなんでしょうね。ルミナーは他のメディアの動画を流用することがあるのでなんとも言えませんが、単に報道の動画をライセンス使用したのか、あるいはストック動画を買って使用しているのか、非常に気になります。どちらにしても、現時点でマツダがルミナーと全く関係ないとすればまあまあ挑戦的に受け取られても仕方ない流れですね。最近は独特のクルマづくりで他のメーカーと一線を画するマツダですから、革新的な取り組みがあってもおかしくありませんし、ぜひLiDARによる自動運転を実現してほしいです。

IAAミュンヘンでは新しいパートナーも

9月7日から12日までミュンヘンで開催される国際モーターショーIAA2021では、ルミナーが今回疑惑の元となったテストをオンロードで開催すると共に、ルミナーのIrisを採用するWebast(ベバスト)とInalfa(イナルファ)というサプライヤーとのコラボも出展されるようです。

ドイツのベバストはBMWやVWにも納入するTier1(1次サプライヤー)で、主にサンルーフシステムを扱う部品メーカーです。イナルファも同じくルーフシステム関連のTier1サプライヤー、こちらはオランダでの創業ながら現在は中国企業傘下ということ。

両社共にIrisをルーフトップに組み込んだ車両を参考出品するということで、ベバストやイナルファの顧客への営業展開も期待できます。

さて、ルミナーはプロアクティブセーフティーのオンロードデモを成功させ、一部に出ている疑問の声を払拭することができるのでしょうか。今後の展開を見守りましょう。

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