革命的で先進的なテクノロジーをかたちにする世界有数の企業テスラは長年にわたり、カメラだけ(一部レーダーを使ったりやめたり)に頼る運転支援システムを進化させてきました。CEOのイーロン・マスクはLiDARについて絶対にいらないものと何度もこきおろし、初めてオースティン・ラッセルと会った時でさえ「ドライバーは2つの目で運転できているんだからLiDARはいらない」とかなり無礼な発言をしたとされています。
そしてテスラが何世代にも渡り開発を進めた結果、LiDARに期待をかける企業や投資家には非常に残念ながら、LiDARはもはやADASや自動運転には無用の長物となってしまったのです!
「LiDARはもういらない」
これがテスラのカルト信者たちが何百回も、何千回も唱えてきた「結論」です。

で、「LiDARはもういらない」のか
確かにテスラの先進性を認めないわけにはいかないとは言え、テスラ以外のほぼ全ての自動車メーカーは冗長性を持たせたセンサーセットアップを必要と考えており、その傾向はますます強くなっています。
そしていよいよ、本当にLiDARはいらないと断言できるのかどうかという試金石が新たに登場しようとしています。それが、6月にテキサス州オースティンで走らせるという監視なしの自動運転タクシーです。これが現実になれば画期的なことで、確かに「LiDARはもういらない」という奇跡的な事実が人類の歴史上初めて証明されたと言えるかもしれません。なお、最強のアンチテスラとして知られるDan O’DowdのXでの投稿がこちら。思いっきりテスラに煽りを入れています。
さて、6月末までに本当にテスラが完全自動運転車を走らせることができるのかどうか、要注目です。わたしの予想では、「みなさん、わたしたちはついに監視なしで完全自動運転タクシーの運行を開始いたします!ただしまだベータ版なので完全自動運転はできず、監視はしながらこれから完成に向けて調整していきます!もちろん監視はしますが、正真正銘監視なしの完全自動運転車です!」といういつもの謎理論でお茶を濁しそうな気がしております。最近ずっとネットワーク監視の担当者を大量採用しているテスラさん、どうですか?

なお、テキサスだけに限らずテスラのロボタクシーはテストをしている様子が全く目撃されておらず、実は全然進んでいないのではないかという憶測も呼んでいます。日本でテストを開始したばかりのWaymoでさえ東京に大量のテスト車両を用意しているのが注目を集めていますし、そもそも自動運転車両の実績ではテスラの数万倍もの記録を残しています。いずれにしても、今後のテスラの動向に注目が集まります。
では本題に戻りましょう。LiDAR銘柄に投資する皆さんの中には、テスラの進化やLiDARを使わずにADAS/AD開発を行う企業の動向を見て、ひょっとして本当にLiDARなしに完全自動運転車が実現してしまったらどうすんの?と疑いを持ち始めている方も多いと思います。そこでLinkedinに投稿されたひとつの情報がとてもわかりやすいので見ていただきましょう。
LiDARは唯一無二
Abhiram Thuraga氏はボルボやBMW、テスラで運転支援や自律運転についてコンサルティングを行ってきた方のようです。彼はルミナーの最新の投稿に対して次のような情報をリプライでリンクしました。
LiDARは高価で贅沢な装備などではなく、自動運転技術において不可欠な要素であり、L3、L4、そしてそれ以降の技術に必要です。LiDARに対する批判として「高すぎる」「電力を大量に消費する」「計算負荷が重すぎ」「カメラとレーダーだけで十分」という声がありますが、これは誤解です。LiDARは唯一、3D空間を正確に捉えるセンサーであり、光や影、塗装の影響を受けず、デシメートル未満の精度でデータ提供が可能です。
L3以上の自動運転では、車両が完全に責任を負い、冗長でリアルタイムかつ高精度な3D認識が求められますが、これを実現できるのはLiDARだけです。技術的な課題についても、専用ASICやAIアクセラレータを用いることで計算負荷が軽減されるので、消費電力は10W(ルミナーのHALO)未満に抑えられています。さらに、LiDARのコストも量産効果で年々低下しており、2028年には100ドル未満になるとも予測されています。
ソリッドステート式LiDARは、現在12W未満で動作が可能で、あらゆる天候条件下で進路や衝突予測に必要な性能を発揮します。LiDARは、カメラと組み合わせることで認識の冗長性を強化し、AIとの統合によりリアルタイムでの表面分類を行い、V2Xアンカー(※どのようなアンカーを指しているかは不明)により正確な位置決定が可能になります。
最終的には、ビジョンやレーダーでは物理的な限界があり、LiDARこそが自動運転における信頼性を確保する技術となります。LiDARなしでL3やL4を実現することは「コスト最適化」ではなく、「信頼を損なう」ことにつながるのです。
ソース:“Let’s settle this once and for all”
この通り、LiDARにしかできないことがあるので世界中で徐々に採用が進んでいるわけで、LiDAR否定派はこのような考え方を全く無視しているという時点で基本的な物理の法則さえ理解できない方々なのではないでしょうか。確かに、コスト、関税やエネルギー問題などもあってLiDARの採用は中国以外であまり早く進んでいません。だからといって「LiDARはもういらない」というのは極端で時代に逆行した愚かな考え方です。考えてみてください、安全に対する意識が非常に低いとされる中国企業が世界一LiDAR採用に積極的な理由は何でしょうか?答えは「LiDARが必要だから」です。この点で西側諸国のエンジニアリングに対する考え方は少しひねくれているのではないか、と思います。
Automotive Council設立
これはルミナーにとって良いことかどうかという議論が早くも出てきていますが、社会的に影響のある事業を進めるには政治力も必要ですからとても重要な動きだと思います。一番驚いたのは元メルセデス・ベンツの前CEOであるDr.ディーター・ツェッチェがメンバーに入っていること。こんな大物をよく見出しましたね。きっと多くの時間と労力(とお金?)をかけて探し出したものと考えられますが、もしかするとメルセデスとのビジネスの協議を進めるにあたって、このような中立的にテクノロジーを評価する組織の関与についても議論があったのかもしれません。もちろんルミナーにとってメルセデスとのビジネスを確固たるものにするためには最高の人材でしょう。

ほかにも、テスラでイーロン・マスクのサポート役として知られたジェローム・ギレン氏のような、財界の他の著名人も評議会に加わっています。彼が数年前に退社したときにはテスラにとって相当大きな損失となると言われたほど高く評価されていました。
こうした活動には即効性がなく、今月や来月新しいOEMとの契約を結ぶのに役立つというわけではありません。むしろ長期的に社会に浸透していくために必要なアイデアであって、ルミナーはそれほど長期的な視野で事業を行っているし、行えるのだとも考えられるのではないでしょうか。
すぐにも事業が行き詰まりそうな企業が提唱して立ち上げた評議会に加わる愚かなエリートはこの世のどこにもいないでしょう。