ルミナーの株主に激震が走ったのは今から10日前、突如ロイターが「Hesaiがメルセデスのスマートカー開発でLiDAR供給の独占契約を締結」と報じました。Redditなどのコミュニティには「これでCLAにLiDARが載っていなかったらもう終わり」というような悲観論が溢れ、結果として発表されたCLAにLiDARらしきものがなかったことから絶望を味わった人達も多かったようです。個人的には、もし本当にメルセデスがルミナーを手放してHesaiに乗り換えるようなことがあれば重大な損失であることはわかりますが、あまりにも謎が多い出所不明の情報であったため早く事実が明らかになってほしいと願っていました。CLAの開発経緯を見守っていて、発表時にLiDARうんぬんの話はでないだろうと予測はしていたものの、タイミングがあまりにも微妙でした。

結論を言えば、決算報告の際にトム・フェニモアが既に「メルセデスは失っていない」と明言したため、この疑惑は一旦解消されたものと考えられます。
それにしても、ここ数ヶ月で業界においてHesaiのプレゼンスが高まっており、メルセデスのニュース、株価高騰などで急激に注目を集めるようになったのには驚きです。勘の良い方なら誰でも「どこが買っているの?」「なんでそんなに儲かっているの?」と疑問に思われたことでしょう。わたしもそうでした。
Hesaiの概要
Hesaiは中国の上海を拠点として2014年に設立された新興企業で、特に自動運転の分野にフォーカスしたLiDAR製品群を開発しています。設立から数年で急速に成長し、パロアルトやドイツなどにも拠点を増やして国際市場に進出しました。

採用された主なOEMは次の通り。
Li Auto:2022年6月に発表されたフラッグシップSUV「L9」に「AT128」採用
Xiaomi::同社初の自動運転車「SU7」に「AT128」採用
長城汽車:「ATX」を複数の量産モデルに採用、2025年に量産予定
長安汽車:複数モデルへの大型契約を締結
中国企業が中国国内で売上を伸ばすのは自然なことで、今後も外国のLiDAR企業が中国のOEMを席巻するようなことは今のところ考えられません。中国で自動車メーカーや部品メーカーが乱立したことで、LiDARだけではなく自動車業界のエコシステム全体が塗り替えられ、世界的な地殻変動が生じています。
そんな中、いよいよ西側の高級車OEMであるメルセデスまでもが中国のサプライヤーに依存を強めるのか、と相当なインパクトをもたらしたのが今回のできごとです。しかし、メルセデスの独占契約については「誤報」もしくは「でっち上げ」であるようです。わたしが調べた限り最初に「それは嘘だ」と断定したのはテキサスの投資会社、ブルーオルカキャピタル(BOC)でした。
BOCは「嘘」と断定する
BOCはいわゆるアクティビストファンドと呼ばれるヘッジファンドのひとつであり、一定以上株式を取得した企業に対し様々な要求を行うので「もの言う株主」とも言われることがあります。米国の法律では一部の株主権利行使が禁止されていますがもちろん公開企業にとっては無視できない存在となっていて、企業側も様々な対策を行って防衛しています。BOCはHesaiに対しいくつかの疑惑を強烈に突きつけており、Hesai側も黙ってはいられない状況ですが、そもそもHesaiのガバナンスが脆弱であるのと、もし一部でも事実であった場合、無傷では済まないであろう事態に陥っています。アクティビストファンドの要求には言いがかりのようなものも多々あるので株主がいちいち動揺していいとは思いませんが、既にHesaiとメルセデスのニュースが事実と異なることがわかった今、BOCの主張に対する信憑性が高まっていると言えるのではないでしょうか。
BOCがHesaiについて主張する内容
以下の内容はブルーオルカキャピタルが公開している情報です。※ソースは下
ナスダックに上場しているヘサイ・グループ($HSAI)は、投資家、国防総省、そしてアメリカの裁判所を騙す中国の詐欺会社と考えられる。
調査内容とその根拠
※は筆者注
Hesaiは投資家や国防総省に対し、同社のLiDARは民間用途のみであり、中国軍には販売していないと繰り返し述べてきました。また、同社のLiDARは軍事利用には適しておらず、「不可能」でさえあると米国連邦裁判所に語っています。先週HesaiのCEOがBloombergに出演し、Hesai製品は厳密には商業用・民間用であり、HesaiのLiDARが中国軍に使用されることは「ありえない」と繰り返しましたが、おそらく嘘です。というのも、中国の情報源によると最近明らかにHesaiのLiDARを搭載した新型軍用車両を紹介する複数の決定的証拠となるビデオや写真が見つかっています。
これらの動画は中国資本のCCTVが制作したもので、本物のビデオだと思われます。動画などの証拠は中国の軍用車両がHesaiのLiDARを搭載していることを明白に示しており、Hesaiが投資家、アメリカの裁判所、規制当局に対してあからさまな嘘をついていることを示唆しています。

さらなる決定的な証拠として、2024年11月、軍需製品を製造する中国国有企業が全国規模の展示会で、HesaiのLiDARを搭載した戦闘車両を展示しました。Hesaiのラベルさえも見えるようになっています。HesaiのLiDARを搭載した中国の戦場車両の追加画像はネットで入手可能です。Hesaiのラベルがはっきりと表示されていないものもありますが、形状やデザインからHesaiのLiDARであることは明白です。

Hesaiと中国軍には深いつながりがあります。米国での株式公開に先立ち、Hesaiは軍と民間技術の統合を目的とした中国の工業団地に登録されました。中国メディアは、この工業団地がHesaiに無料の施設まで提供していたと報じています。
2024年1月、国防総省はHesaiを「中国軍需企業」の1260H条リスト※に掲載しました。Hesaiは削除を求めて提訴しましたが、わたしたちが発見した写真やビデオによれば、Hesaiはこの裁判で全く勝ち目がないというだけでなく、投資家や米当局に嘘をついていたことがわかります。※国防権限法第1260H条の法定要件に従い、米国で直接または間接的に活動している「中国の軍事企業」のリストを発表

わたしたちはHesaiが間もなくアメリカ市場でのビジネスを失うだろうと考えています。Hesaiのアメリカの顧客企業であるGMのCruiseやAmazonのZooxなどは米軍との契約を有しており、米国が「中国軍関連企業」に指定したHesaiとの取引をこのまま続ければ軍事関連の契約を失う可能性があります。

さらに、軍事契約の問題がなかったとしても、この地政学的な情勢下では、米国の主要顧客企業が「中国軍関連企業」に指定されているHesaiと積極的に提携を継続することには非常に懐疑的です。
そのため、Hesaiは近いうちに一部の顧客層を失うと考えています。この顧客層は2023年度のHesaiの収益の40%および粗利益の57%を占めています。しかし影響はそれ以上に深刻なものになるでしょう。
最近トランプ政権は、中国軍とのつながりを持つ中国のテクノロジー企業が米国の利益および国家安全保障に対する脅威であると宣言し、アメリカの投資家や金融機関がそのような企業に投資することを禁止する措置を明確にしました。Hesaiはまさにその問題を示す格好の例です。Hesaiはアメリカの資本市場を通じて投資家から資金を調達しているにもかかわらず、そのLiDAR技術が最終的には中国軍に利用されているという明らかな証拠があるからです。
元従業員によれば、Hesaiはアメリカ企業から技術を盗み出した疑惑があり、その技術が現在、中国軍の軍用車両などで重要な役割を担っています。わたしたちは米国政府がHesaiへの投資を禁止あるいは抑制し、その株式を売却させる措置を取ることを予想しています。
そしてHesaiは上場廃止になる可能性があります。トランプ政権が、中国軍の車両に技術移転している企業がアメリカの株式市場で資金調達を続けることを許可するとは考えられません。
最近のよく似た事例としてTuSimple※の例があります。これはかつて米国株式市場に上場していた中国企業ですが、アメリカの国家安全保障に対する脅威という疑惑が原因の一つとなり、米国でのビジネスを手放し上場廃止となりました。※現CreatAI社
また他の例として、中国移動通信(China Mobile)、中国聯通(China Unicom)、中国電信(China Telecom)という3つの通信企業があります。これらの企業は、米国政府が中国軍を支援していると判断した企業への米国の投資を禁じるトランプ政権の大統領令に基づき、ニューヨーク証券取引所から上場廃止となりました。
しかし、Hesaiの事情はこれらの事例以上に深刻です。2024年第4四半期、Hesaiの経営陣は決算発表で「5年間にわたる赤字を経て、ついに黒字転換を果たした」と主張し、それを受けてHesaiの株価は約4倍に急騰しました。わたしたちは、これが意図的に引き起こされた錯誤であると考えています。
2024年第4四半期にHesaiが帳簿上2,000万ドルの純利益を計上できた唯一の理由は、最大の顧客が契約を終了する際に支払った2,000万ドルの一時的な違約金によるものだと推測されます。この契約終了は投資家には開示されていませんでした。こうした誤解を与えるような開示情報によって投資家はHesaiの事業が好転したとみなしたようです。しかし実際には好転したのではなく、最大顧客を非開示のまま失ったため、Hesaiは非常に危険な状況にあると見ています。
投資家に非開示のままHesaiが従業員の最大30%を解雇しようとしているというニュースは、この見方を裏付けるものです。大規模な人員削減は安定した利益を生み出す明るい未来などではなく、主要顧客を失った企業が苦境に陥っている兆候だからです。
先週、Hesaiの株価は「ヨーロッパのあるOEMとの独占的な複数年契約」の発表および、そのOEMがメルセデスだとする匿名のリーク情報により50%も急騰しました。どうやら投資家は再びHesaiに騙されてしまったようです。
第一に、メルセデスの最高技術責任者(CTO)は投資家に対し、中国市場で今年提供するADAS(先進運転支援システム)にLiDARを使用しないと述べています。第二に、メルセデス自身はこの取引を認めていません。第三に、すでにLuminarがメルセデスのLiDARパートナーであるため、この取引が本当に「独占的」である可能性は極めて低いと考えられます。※3月20日にルミナーのCFOの発言で確認された
さらにわたしたちは、Hesaiの財務情報の正確性についても疑問を持っています。当社の見解では、Hesaiが発表している収益を裏付けるほどのLiDARを最大顧客が購入しているとは到底考えられず、この顧客からの収益は実際よりも48%~67%も過大に計上されている可能性があります。Hesaiの公表する利益率は疑わしいものです。LiDAR市場は競争の激しいビジネスですが、Hesaiだけが 40% 以上という業界トップクラスの粗利益率を報告しています。しかし、Hesaiの利益率は常識を無視しています。利益率が低いADAS向けLiDARの収益率が2023年の40%から2024年には62%まで上昇した一方で、HesaiはLiDAR製品の粗利益率が8%以上も改善したと報告しています。
さらに深刻な事態として、中国政府が虚偽の報告をした企業に懲役刑を科すとする新しい規制を導入した直後、Hesaiは中国でのIPO計画を取り下げました。ところが、中国ではIPOできない中国企業が米国の株式市場で上場しているのです。 彼ら自身、内部統制に重大な欠陥があることを警告しており、さらには米国会計基準(GAAP)に精通した十分な人材がいないことを認めているにもかかわらず、です。
当社の意見では、Hesaiはビジネス倫理上全く信用できない企業であり、その株式は投資対象としてとても受け入れられないものである。
ソース:
https://x.com/blueorcainvest
https://www.safesecuretech.com/chinese-military-images
https://www.federalregister.gov/documents/2024/10/23/2024-24723/notice-of-designation-of-chinese-military-company
要約
Hesaiは中国軍と結びついており、米国株式市場で集めた資金で中国軍に製品を供給している。
黒字転換できたと主張しているが、重要な開示をしておらず、直近の利益は一時的なものである。
メルセデスへの独占供給契約という虚偽の情報リークを行い投資家を欺いた。
利益率の低いADAS向けLiDARの割合が大幅に増えている状況(2023年の40%から2024年は62%へ上昇)では、製品構成上全体の利益率はむしろ下がることが自然であるにもかかわらず、利益率が大幅に改善しているということは整合性が取れず、おそらく財務的に疑わしい処理がされている。
という内容で、これぞ疑惑のオンパレードというやつです。ここでも個人的見解を申し上げるとすれば、疑惑はおそらくほぼ事実で過去の事例から考えてもDELISTされるのが妥当でしょう。
2024年ER
決算発表後、株価は大きく上昇しました。ようやく、本当にようやく中期的な上昇が見られており(今のところ)、来週いっぱい踏みとどまれば四半期のチャートが7四半期、実に約2年ぶりのプラスとなります。ただこのままあと半年ほど株価を伸ばさないと中長期のチャートの転換はまず無理でしょうし、日足で数十%上がったとは言ってもわずか2ドルほどで、「悪くはないけど何も変わらない」という状況。
メルセデスCLA
Iris+はかなり短命となるだろうと再三申し上げてきましたが、最終的にIrisのマイナーチェンジをすっ飛ばしてHALOに行くということについては良い選択をしたと思います。CLAのコンセプトモデルはIris+をイメージした薄型LiDARという認識でしたが、実際にはIris+もIrisも実装時の出っ張りはそれほど大きく変わりません。高さがわずか16mmというHALOを採用してこそ実現するデザインです。

これでもうスケジュールもおおまかにわかりましたし、HALO量産化に向け引き続きルミナーの皆さんには頑張っていただきたいと思います。
現場からは以上です。あれ、今朝は中国からと思われる着信が何度も・・・。