最新のYouTube動画でルミナーの変化を垣間見ることができたので少し触れておきたいと思います。
まずは約6分のこちらの動画。皆さんは既にご覧になっているかと思います。
多少意訳が入りますが、重要な部分を要約しますと次の通り。
David Foster
エンジニアリング担当エグゼクティブバイスプレジデント(2024-)
Lyft、Apple、Microsoft、Amazon、などで役員やリーダーを務める。iMac、MacBook、MacPro、Kindle、Kindle Fire など画期的な製品をコンセプトから大量生産まで成功させてきた。オックスフォード大学で電気工学とコンピュータービジョンの学士号、修士号、博士号を取得

Luminar HALOは自動車用の最新世代LiDARデバイスで、車がどのような天候でも数百メートル先を見ることができます。これにより、道がまっすぐか曲がっているか、道に障害物があるか、運転している車の前に他の車があるかなど、車の前方の情報を正確に把握できます。
OEMはその情報を利用してAEBや衝突回避などの対策を行うことで、車と乗客をより安全に保つことを目指しています。
Anders Grunnet-Jepsen
先端技術開発担当バイスプレジデント(2021-)
ThinkOptics、Intel Corporation、LitePoint Corp、Innurvationなどで開発を行う。オックスフォード大学で光学工学の博士号を取得。光学、物理学、スタートアップ、R&D などで豊富なスキルを有する

わたしたちはこれまで、性能を飛躍的に向上させるため、またコスト削減や消費電力の低減を実現するために、様々な面から改善に取り組んできました。具体的には、デバイスのサイズを小型化し、車両やその他のアプリケーションに容易に適合させる方法、そしてどんな条件下でも優れた視認性を確保する方法を模索し、全体の計算を見直して新たなアルゴリズムを開発し、システム全体でプロファイリングを実施しました。

すべての分析を終えた後、わたしたちは、このコア部分を専用のASIC(特定用途向け集積回路)に統合することで、他の部分を低消費電力にできると判断しました。このASICは、固定機能アクセラレータとしてこの種の認識処理に特化しており、必要な信号処理とアルゴリズムを最適に処理します。
Matt Weed
製品担当シニアディレクター(2015-)
医療分野や自動車業界での高度な光学およびフォトニクス技術の商業化に携わる。光学会の公共政策委員会の議長、全米フォトニクスイニシアティブの運営委員会、フロリダフォトニクスクラスターの理事。セントラルフロリダ大学でチップスケールフォトニックデバイスの統合と製造の研究を通じて博士号、レンセラー工科大学で物理学の修士号を取得。レーザー、LiDAR、その他のセンシング技術で 24件の米国特許を保有
LiDAR市場の大部分は900nmの波長の既存技術に基づいていますが、ルミナーのLiDARは1500nmという非常に異なる波長、人間が知覚できない光を用いています。
900nmではカメラセンシングなどの用途に開発されたシリコン技術を使用できるメリットがあるのですが、人間の目を守るため安全に発信できる光の量には厳しい制限があります。ルミナーが採用する1500nmではこの制限がなく、多くのエネルギーを安全に発信できます。その結果、より遠くの物体を見ることができますし、より多くの測定を行うことができます。航空宇宙や防衛でのアクティブセンシングでは同様の長波長光が使用されていて、悪天候時や埃などを通過できる能力と、検出距離を拡大できる部分が重要なメリットとなります。


Anders Grunnet-Jepsen: わたしたちにとって重要なのはそれが差別化要因となるだけでなく、自動車業界のあらゆる取り組みを促進する重要なポイントともなるからです。確かに、車両の周りにカメラを使うことで驚くべき進歩が成し遂げられていて、AIも大きく進化していますが、なぜこれらの進歩が可能だったのかというと、それはOEMがLiDARをグランドトゥルースとして使用しているからです。これら(LiDARで現実を感知することと、カメラとAIを組み合わせてこうだろうと推測すること)は生死に関わる違いをもたらすものです。わずか16ミリほど突き出すだけの小さなセンサーが作り出す見えないシールドは、車の周囲のすべてをリアルタイムで3Dマップ化しますが、それは単に数メートル先だけでなく、最大300メートル先の物体をセンチ単位という驚異的な精度で捉えています。
David Foster: デザイン面でも、HALOは細部にまでこだわり抜いて設計しており、すでに複数のデザイン賞を受賞していますし、今後のさらなるノミネートも続いています。これは単なる自動車部品というだけでなく、産業デザインとして高く評価されていることを示しています。HALOは、これまでのLiDAR技術と比べて圧倒的に小型でありながら最高レベルのパフォーマンスを実現しており、市場の競合製品と比較しても性能・コストの両面で優位性を誇っています。

Matt Weed: 現在LiDAR市場ではLiDARメーカーのロードマップが崩れつつあります。彼らは、率直に言えばわたしたちの仕様をベンチマークにしてパフォーマンス面で追いつこうとしており、測距性能や解像度の向上を目指しています。
また、製品の小型化、低消費電力化、低コスト化といったパッケージングの目標に向けても激しい競争を繰り広げています。一方で、ルミナーはこれらの課題を同時に解決することを目指しており、その成果として誕生したのがHALOです。HALOはこれまでのLiDAR製品の中で最も小型で、かつ最高のパフォーマンスを誇る製品となっています。他のメーカーもこの2つの要素を開発の主軸としています。

しかし業界では、ある製品はフロントガラスの後ろに設置できて200ドルで販売できるが、一方で高速道路での自動運転という重要な要件を満たせない、あるいは逆に高度な機能を持つが価格が高すぎる、といった状況が生じています。ルミナーは、こうしたアプローチが長期的なビジネスモデルとして成功するとは考えておらず、両方の要件を満たせる製品こそが勝ち残ると信じています。そして、HALOはその理想を実現することを目指して開発されました。
HALOこそゲームチェンジャー
マット・ウィードが性能がいいけど高すぎるか、安くて機能が不完全なものかというアプローチは取っていないと語った言葉がHALOの商品性をずばり表していますし、ルミナーのLiDARは中華製LiDARに勝てるのか、という疑問への答えとも言えます。しかし、現状ではIrisおよびIris+はどちらかと言えば性能がいいけどやや高すぎる製品ということになり、OEMも次世代の運転支援/自動運転についてはHALOを軸にした長期的な展開を考えていることでしょう。以前一度書きましたがIris+はかなり短命のマイナーチェンジモデルとして、HALOにその役目を譲ることになりそうです。
ウィンドシールドの後ろにHALOが搭載されているコンセプトモデル?の映像を見る限り相当小さくまとまっており、今でも多くの新車に装備されているマルチカメラやレーダーを格納したスペースと比べてもほとんど違和感がありません。上の画像にあるような、小さなプロファイルのセンサー用スペースやルーフ格納式のプラットフォームもサプライヤーが開発を進めているので(ロータスはルーフトップの格納式LiDARを既に市販化済み)、ある時点で爆発的に搭載モデルは増えるでしょう。

株主としては「さっさと作ってさっさと売らんかい」とツッコミを入れたくなる気持ちもあるでしょうが、長期的に考えて市場に影響を与えるほどの売上を叩き出すまでにはまだまだやることがある、と思わせるような映像だったと思います。

Redditでは上の画像に写っているEQx(おそらくEQS)のルーフにLiDARが載っているところが注目されていましたね。いずれにしても発表がなにもないのでわかりませんし、未発表の重要な事実を製品紹介動画で暴露してしまうこともないでしょうから新しい期待につながるわけではありません。
動画で再三触れられていた光の波長については非常にわかりやすい資料がルミナーからリリースされていますので、お好きな方は一度読んでおかれることをお勧めします。
→光の波長の重要性ホワイトペーパー
CLAの発表について
今から2週間前に、メルセデスのCTOであるシェーファーさんがCLAの発表について予告を投稿しました。その際の画像がこちら。

CLAにルミナーのLiDARが標準搭載されなかったらもうおしまいだと嘆く人もいますが、普通に考えて総額数十億ドルの基本契約を締結し、大々的に発表したパートナー企業がいるのに、計画が変わって事前に公表したその製品を使わないとしましょう。CLAについて予告するだけならテスト中の車両など使えそうな画像は山ほどあるのに、わざわざルミナーのLiDARが載っているこの画像を期待する人々のために出しておいて「すまんが、LiDAR(ないしはルミナー製品)はほとんど使わないので」としたら相当な嫌味、いやパートナー企業をバカにした行為でしかなく、もはやパートナーシップの信頼感は失われたと思っていいでしょう。このようなポストはエンドユーザーだけでなく、当然ながらパートナーへのお知らせでもあります。
もしそのようなことが実際に起きるとすれば、メルセデスのCTOは空気が読めない相当な間抜けであるとしか考えられませんが、わたしはそうは思いません。
OEMはテスラに限らず「他社がやっていないことを最初にやる」ことを目指していると思います。そういう意味ではボルボが既にやっているルーフトップにIrisを乗っけるという二番煎じは、仮にIris+だとしても本当はあまりやりたくないことでしょう。メルセデスがIrisを載せたらBMWは何としても他社製品を選ぶ可能性が高いとも言えます。メルセデスとしてもいろいろ考えどころはあるでしょうね。万が一、CLAについてLiDAR採用の見通しが立たなくなったというような状況の変化があるとしたらルミナーの経営陣から然るべき情報開示をしていただきたいと思います。
新型CLAの発表は日本時間で14日の午前3時です。
Stay tuned!