2年ほど前からニューヨークの大手建築事務所のデザイナーと仕事のやりとりを続けてきまして、毎日のように技術的な議論をメールで行ってきました。しかしニューヨークの生活は相当厳しいようで、ここ最近は年収20万ドルでもインフレに対処するのが難しいと嘆きの声が聞こえてきたと思ったら、結果としてインフレ率の低下したカナダに引っ越すことになったとの知らせを受けました。日本でも電気代の上昇その他日用品の高騰でじわじわ生活が苦しくなってきているようですね。本当に世知辛い時代になりました。
我が家の事で恐縮ですが、現時点では非常に節約生活を続けてきたおかげで生活費の高騰にもなんとか対処できています。しかしこれからさらに物価が上がり、ついに金利が上がると将来どうなっていくのだろうとわずかながら不安も拭えません。
ということで、これまで以上に将来に備えてキャッシュを残しつつ、賢く投資して適正な家計を構築していかなくてはなりませんね。
今後の方針として、当面新規の銘柄への投資は凍結することにしました。今の主力になっているセールスフォース(CRM)が、「ビッグウェーブきたーーー」と喜ばせるようなボラティリティはないもののじりじり値を上げてきており、設定株価に近づいていますので今年の収益は大丈夫そうかな、という感覚です。このボラティリティがない、というのがメインの投資先としては非常に重要で、収益がしっかりしていて株価にも強い企業はやはり低ボラティリティで時間をかけてがっちり上がってくれます。
さて、この米国株について書いてきたブログも、すぐには思い通りにならないハイリスク銘柄の$LAZRと$PSNYにほぼ絞って更新し、この銘柄に目処が立った段階で終了することに決めました。ま、もう事実上そうなっていますけどね。
IAA Mobility 2023
IAAの前に、WSJのインタビューに応じたオースティン・ラッセルは、以前からずっと述べていたように「人間のドライバーを自動運転システムに置き換えるのではなく、ドライバーを強化するつもり」というポリシーを表明しています。
そしてIAAでは、当初テスト車両を用意していませんでしたが、何の事情なのかぎりぎりになってホールC2にもエントリーし、テストコースでデモンストレーションを実施することになりました。
事前に発表されたCLAは相当話題になってますね。ルーフトップにきれいに統合されたLiDARはIris+をイメージしたものでほぼ間違いありませんが、今のところメルセデスからもルミナーからも詳細は語られていません。コンセプトカーですので「将来はここまで薄く小さくなればいいな」ということなのか、あるいは本当にここまで目立たない設計でメルセデス側が進めているのか、次の情報を待つことにいたしましょう。
そういえば、ヘッドライト/テールライトのLEDの形状がメルセデスのスリーポインテッドスターになっているところへの批判も結構あるみたいですね。やりすぎだ、ということなのでしょう。しかし、よく見ると前後ともに市販のライトが埋め込める形状に窪んでいて、おそらくはほとんどそのままそこにライトが収まるということになるでしょう。ちゃんと市販車両をイメージできるように造形がなされていて、そこも「現実可能な洞察」の一部ということができます。
1000億そして1兆ドルへの可能性
ところでオースティン・ラッセルは前の記事で書いたように、「1000億ドル、いや1兆ドル企業への道も開かれている」と述べました。この◯ドルの意味合いを正確には述べていないので、一般的な解釈として時価総額と考えておきたいと思います。
今日時点で、時価総額1000億ドル以上の企業は80社あります。そのほとんどが、売上規模100億ドルを超える企業となります。したがって現在の市場環境で考えれば、ルミナーも100億ドル規模の収益を上げなければそのレベルに到達しないことになるでしょう。では、100億の売上のために必要な計算はどうなるでしょうか。
今回は与えられている情報からシンプルな収益構造で考えてみたいと思います。当たり前ですが詳細な売上構成などはわかりませんので、LiDARが何台売れるかだけを計算し、それに伴うサブスクやソリューション開発などは除外します。また、現在のLiDARのモデルはIrisおよびIris+、ルミナー社内では「モデルI(アイ)」です。これは1台あたり基本価格が1,000ドルと公表されています。一方、次のモデルはI(アイ)の次のアルファベット「J」が付けられ、今のところ仮称として「モデルJ」と呼ばれています。価格について正確にはなんとも言えませんが(フェニモアは直近のインタビューで「近いうちにモデルJについて説明する」と述べた)、市場に広く普及させる前提で考えると、標準的な価格帯の車両にも搭載されるためにこのモデルJが量産されるということで、1台あたりの売上は500ドルで見積もりましょう。
1年間に全世界で生産される自動車は約8000万台です。このうち「10%の市場を取るだけでかなりの収益が見込めるが、それは我々を失望させる」とCFOのトム・フェニモアが過去に述べていることから、数十パーセントの市場は取れる前提で話を進めます。全世界で1年に生産される自動車の20%にモデルJのLiDARが搭載され、1台あたり500ドルとすると、単純計算では
1600万台×500ドル=80億ドル
となり、100億ドルの収益にかなり近づきます。まだ20億足りないから時価総額1000億企業にはなれないのか、というと今の状況とは全く異なる将来が待っていると断言できるでしょうね。つまり、今の市場は本当にADASが進化し、自動運転または自律運転というものがビジネスになるかどうか信じていないし、深く理解することさえできていません。AIを売り込み始めたルミナーのAIによる収益の貢献度もまだ見えていませんし、世間はLiDARの必要性にさえ懐疑的です。しかし現実的に80億ドルをLiDARで売り上げることに成功し、LiDAR搭載車両が普通に街を走るようになる頃には付随する様々な収益によって年間の収益は100億ドルを超えていることでしょう。さらには、あとで書くつもりの別の要素がルミナーの収益に大きく貢献することはまず間違いないはずです。自動運転を実現するデバイスを普及させ、AIがソフトウェアを強化する、そして売上は100億を超え高収益企業となった、株価は上がります。
なお、ここまで読んでこられてもうお気づきでしょうけど、売上100億ドル、株価300ドルを目指すにはかなりの年数が必要です。明日大金持ちになるなんて無理です。
では、1兆ドルの未来はありえる?
時価総額1兆ドルを超える企業は現時点で米国株式市場にわずか5社。テスラを含む8社が過去に1兆ドルを実現しています。このうち、アップルやマイクロソフトにルミナーが売上規模で追いつこうと言うのはちょっと想定しにくいです。比較対象になりそうなのはNVIDIA。NVISDIAの売上規模は2022年通期で約270億ドル。これをルミナーがLiDARだけで叩き出そうとすれば、全世界の新車の半分以上のシェアを確保していなければならない計算になります。これも単純計算では
4800万台(新車の60%)×500=240億ドル
ここにサブスクなどのマネタイズが証明されれば、じゃぶじゃぶ売上が加算されていることになり、オースティンが言っていたような1兆ドル企業への挑戦権を手に入れても不思議ではありません。
こういう計算のことを皮算用というのであって、意味があるようなないようなものとして軽く捉えていただければ結構ですが、仮に「1000億ドルの可能性がない」となればわたし個人としてはハイリスクに賭けた割にあまり報われないことになるので、想定しておくことは重要かと思います。また、平均15ドルで買った人でも、1兆ドルの夢が持てるなら株価200倍というとんでもないリターンが実現するかもしれません。
ルミナーはLiDAR屋ではない
がしかし、上に書いたように単純計算で世界販売の6割の車両にLiDAR?誰もがそう思われるでしょう。ここでルミナーの収益はLiDARのHW収益しかないのか、という基本的な問題が残ります。LiDARをせっせと作って1台500ドルで売ります、あとはシェアが8割、9割になるまで頑張ります。そういう未来しか残らないのでしょうか?これではただの部品屋で、AIやその他のルミナーの特徴が反映されていないということになってしまいます。
皆さんは、Googleをいつ頃から使いだされたか覚えていますか?5年前?10年前でしょうか?もし10年使っておられたらかなりの長期的ユーザーです。わたしはGoogleのIPOの年、2004年から使ってきました。しかし、Googleはただの検索サイトという認識しかなく、後にその膨大なデータを活用して世界であらゆるサービスを浸透させていくことになるなどとは想像もつきませんでした。
ルミナーはLiDARのポイントクラウドの情報を収集し、まずは数百万台の車両で膨大なデータの解析を実現させようとしています。テスラはとっくにやってる?いえ、過去に車載カメラのビジネスに身を置いていたものの見解として、カメラのイメージはデータが大きすぎます。ルミナーはもっと確実に物体を検知し、「そこにこういうものがあると推測したデータ」ではなく「そこにこのようなものが確かにある」と判別できるポイントクラウドデータを収集し、Civil Mapsの技術により非常に小さな情報量でHDマップを更新し、活用することができます(Civil MapsのCEOは「これまでのところルミナーチームと非常にうまくやっている」と述べている)。※テスラファンからの批判覚悟
そこで保険ビジネスやHDマッピングのビジネスが大きくマネタイズに貢献してくることでしょう。この流れはLiDAR数百万台の販売を達成することで大きく飛躍するであろうと考えられます。もしルミナーが覇権を取り、全世界の新車の20~30%に搭載されたLiDARで情報を収集し、活用し始めたらどうなるかと想像しますと、それがかつてのGoogleの成長に重なるのではないかと思うわけです。
こういうことを言うと(また始まった)テスラ支持者から「HDマッピング笑そんなもんテスラのシステムでとっくに不要と証明されとるわ」などと言われるんですよ、はっきり言ってそういうテスラ信者は冗長性のじょの字も理解できない、テクノロジーを命より優先するようなとんでもない人間だと思います。冗長性を切り捨てて最低限必要なものでやってきたのがテスラです。逆にテスラが冗長性をもっと考えていたらもっともっと安全なシステムを作れるはずなのにそうしないのはなぜですか?ガーバー・カワサキのロス・ガーバーがドーン・プロジェクトのダン・オダウドとテスラのFSDを検証し、YouTubeに動画を公開された後まあまあこき下ろされていましたよね?
テスラがいかにEVの覇権を握ったと言っても、過去10年間の累計台数は365万台です。その内FSDのベータテスト参加数はわずか30万台と言われています。昨年末には100万台を超えると言ってましたがどういうこと、イーロン?たった30万台のFSDがこれほど自動車業界に影響を与えるなら、数百万台からデータを取得し始めた時にルミナーの価値はどこまで上昇しているでしょうか。
最後に、リスクについても触れておきましょう。以前から書いていることでもありますが、LiDARが機能せず致命的な事故が続いた場合、テスラのFSDによる事故以上に叩かれることは覚悟しておかなければならないでしょう。テスラは「テスラの熱狂的ファン」が支えています。ルミナーはOEMに搭載された「部品メーカー」でユーザーの忠誠心が異なります。また世界のOEMがADASの強化と自動運転への対応を遅らせた、または遅れた場合、ルミナーの成長が1年ないしは3年程度停滞する可能性も考えられます。
安全にもっと焦点を当てるべき
これからの自動車の進化は、スマホやタブレットでわたしたちが行っていることとシームレスにつながっていくと予想されています。ポールスターが中国でウルトラハイエンドスマホを発売するのもその一環と言われています。車内には大きなディスプレイが並び、ドライバーや同乗者のニーズを満たすありとあらゆるサービスが普及して、マネタイズされていくでしょう。わたしはこういう風潮に少し嫌悪感を覚えるほどで、車には娯楽も必要かもしれませんが、いちばん大切なのは安全でしょう。今のドライバーの方たちはただでさえ運転しながらみーーーーーーーーーーーーーーんなスマホ、スマホ、スマホ。運転しながらスマホ、赤信号で停まったらスマホ。駐車中にスマホ。周囲を見渡すべき歩行者もスマホ、ある意味自動車よりもっと危険の数が多いかもしれない自転車乗りもスマホ。これはもうどうしようもないことで、このままではもっともっとドライバーの注意力が散漫になることは絶対に避けられません。今度は車内の大きなディスプレイでスマホと同じようなことができたらドライバーはどこを見て運転するようになりますか?スマホを片手にLINEで友達とメッセージのやり取りをしながら、映画やYouTubeを見て運転ですか?少し話がそれましたが、一番お金をかけなければならないのは本来安全性のための装備です。エアバッグが義務化されたように、ルミナーのプロアクティブセーフティを世界中の車両で標準装備しましょう!←1000億企業が見えてくる