様々な火種に悩まされ株価の低空飛行を続ける新興EV市場で比較的しっかりと株価を維持しているのが北京から送り込まれた最強の刺客、NIO(NYCE:NIO)です。米中を中心に激しい主導権争いが続くEV市場でNIOは王者になれるのでしょうか。
NIOについてのトピックスは次の4つ。
- 創業者のウィリアム・リー
- 中国政府の支援
- 商品(車)の完成度
- 実績が物語る成長性
この会社が中国企業でさえなければポートフォリオの3-5%程度は確実に買っていたはずですが、何度も繰り返しお伝えしているとおり中華系企業へは投資しないと決めているので参考までに手短にまとめていきたいと思います。
創業者のウィリアム・リー
NIOのファウンダーで現CEOのウィリアム・リー(本名は李斌=リー・ビン)氏は、北京大学を卒業後まだ20代の2000年に中国の自動車産業向けにインターネットサービスを提供するビットオート(上場時NYSE:BITA)を設立、2020年まで会長職に就いていました。2002年には北京クリエイティブ&インタラクティブデジタルテクノロジー株式会社を共同設立、中国自動車ディーラー協会(CADA)の副会長を務めるなど中国の自動車産業で最も有名な人物の1人とされています。
彼は2014年にNIOを設立、Tencent、Temasek、Baidu、Lenovo、TPGなどの大手企業から投資を受け、1年半の期間と10億ドルの資金を使ってEVスーパースポーツカーEP9を完成させます。2017年にはこのEP9がドイツの有名サーキット・ニュルブルクリンクで2009年から続いていたラップタイム記録を2.1秒縮める6分45秒9の最速記録を叩き出しました。
今や中国のイーロン・マスクとも呼ばれるリー氏ですが、既に5年以上前からレベル3-4の自動運転を実現すると公言し、テスラにとっての課題であるバッテリー交換のステーションを一気に拡充するなど実際かなり大きなスケールでリーダーシップを執ってきました。プレゼンターとして颯爽とステージに上がるビジネス界のスター、リー氏の発言は市場にも大きな影響を与えています。
中国政府の後ろ盾
華々しいNIOの躍進は何も問題なく続いてきたわけではありません。2019年には新興自動車メーカーによくある深刻な資金繰りに陥り、かなりのスタッフをリストラすることになりました。資金不足の主要な原因は同年立て続けにバッテリー発火事故が生じたこともありEVが思ったほど売れなかったというごく基本的なもので、中国政府からのEV補助金が年々縮小してきたこともひとつの要因となりました。そこで2020年4月には中国企業にとって最大の問題である「中国政府の介入」が生じ、結果として10億ドルの資金と引き換えに24%のシェアを間接的に政府に握られることになったのです。これを救済と見るのか、あるいは元からリー氏は北京から送られて来たのだ、と見るのかによりますが株式市場はとりあえず中国政府の介入を吉報と受け取ったようです。
しかしわたしが最も懸念するのはここです。中国政府が関与する以上、NIOの運命は今やウィリアム・リー氏ではなく北京が握っていることになります。米中EV戦争(日本やドイツなどのメーカーがEV競争に遅れているとは言わないがEV一本とは路線が違うと思う)において中国支持に傾くというのはいくらお金儲けと言っても気が進みません。とはいえ直近で大きな問題が生じて破綻しない限り、中国と香港市場のEV市場でNIOが先行する可能性は非常に高いと思います。
後半の記事も書きかけてはいるのですが、少し長くなるので次回に続けます。
[…] 厳密には自動車だけでなく家庭用バッテリーチャージャーなどの商品もありますが、今回は自動車に絞ってまとめています。前回の記事で書いた2人乗りのスーパースポーツカーEP9は既にカタログから姿を消しており、現在のフラッグシップモデルは流麗なデザインのセダンET7となります。中国のカーデザインはお世辞にも素晴らしいとは言えないと思っていましたが、NIOのデザインはかつてのどこにでもあるような古臭い中国車のイメージから脱却し、自動車先進国の人気モデルのように洗練された雰囲気を漂わせています。 […]
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