今回はローズタウン・モーターズの経営面での課題に目を向けてみましょう。

現金は尽きようとしている

2020年10月にSPAC経由で上場したローズタウンRIDE)は上場時に6億7500万ドルを調達、GMからも7500万ドルの資金を手にしました。それからわずか半年で現金が枯渇しようとしており、直ちに新たな資金を調達できなければ今後の製造ができないという状況に陥っています。現金が7億5000ドルあったとして、日本円で約825億円ということであればなぜそんなに早く資金難に陥るのか、と疑問に思うはずですが、結局前の記事で書いたように、EVをなにもない状態から量産までこぎつけるには軽く10億ドル以上の資金が必要で、それには足りなかったということなのでしょう、事実テスラも当初10億ドルを想定しながらそれをはるかに超える90億ドルもの資金を注ぎ込んできたことからも明らかです。

慌てたローズタウンは、拘束力のある受注を確保しているから資金繰りに問題はないと発表し、株価は一時的に急上昇しました。しかしその直後には「実は拘束力のある絶対的な受注ではない」と前言を撤回、またも株価は急落しており上場来最安値の6.69ドルに近づいています。

そして創業者とCFOの辞任

ローズタウンなどの新興EVメーカーが目指すのは次のテスラだったはず。テスラもかつては資金繰りが悪化したことがあり、破産が目の前に迫っていると考えられていました。しかし、テスラにはイーロン・マスクがいました。ローズタウンが軌道修正し、危機を乗り越えるためには創業者のカリスマ性が必要だったはずですが、スケールの大きいビジネスの経験に乏しく、存在感の薄いスティーブ・バーンズにイーロン・マスクのような壮大な未来は描けなかったようです。

CEOのバーンズとCFOのロドリゲスが辞任

結果、6月14日月曜日にスティーブ・バーンズは資金繰りと受注に関する虚偽説明の責任をとって(逃げたとも言える)CFOのフリオ・ロドリゲス共々辞任し、株価は20%近く急落しました。それでも依然26.5%の株式を保有する筆頭株主のバーンズ氏が持ち株を売却することでさらに株価に下げ圧力が加わると考えられています。このような見方が広がる時点でバーンズには市場からの信用がもはやどこにもないということでしょう。

2名の重要人物を失ったローズタウンは同日あとを引き継ぐ経営陣を発表、経営トップには不動産投資グループの創業者であり、様々なテクノロジー分野で経営や開発にあたってきたアンジェラ・ストランドAngela Strand)、CFOには公認会計士でイーストマン・コダックやサックス・フィフスアベニューなどに在籍したベッキー・ルーフBecky Roof)が就任することになりました。

テスラに続くと思われた期待の星は上場して1年経たないうちに今や事業継続の危機に直面するようになりました。わたしはローズタウン・モーターズの株を少なくとも今後数年間買うことはありませんが、なんとか今の状況を脱出して自動車業界を盛り上げる存在になってほしいと心から願っています。

ここで最後に2つ言いたいことがあるのですが、まずひとつめとして、長期投資を前提とした場合のSPAC上場の大きなリスクにはいい加減気づくべきですよね。ルミナー・テクノロジーズを結構買っていて、ベロダインライダーにも手を出したわたしが言うのは説得力にかけるかもしれませんが、他のSPAC企業に投資することは金輪際ないと思います。

もうひとつは新興EVメーカーの今後について。もし仮にローズタウンが資金繰りに成功してピックアップトラックENDURANCEの出荷が始まったとしましょう、それまでに半年かあるいは1年以上かかるかもしれません。では、現時点で他の既存メーカーがものすごい勢いで研究開発を進めている自動運転自律性運転などの先進機能についてその頃のローズタウンにはどのような選択肢があるのでしょうか。ようやくスタートラインに立てたと思ったら、既存メーカーはEVFCVモデルを次々準備していて、しかもADASの充実、そしてレベル3~4の自動運転などの未来へ進もうとしていることでしょう。トヨタがとてつもない資金を投下して覇権を狙う全固体電池などのテクノロジーがやってきてEVの世界がここ数年で激変する可能性があります。

自動車業界は極めて巨大で、サプライチェーンの構築などエコシステムの確立には天文学的なコストと時間、世界中で優秀な人材の確保が必要です。わたしは新興EVメーカーの努力を否定はしませんが、上場した場合の投資については完全に否定的です。投資額が10倍、20倍になるような次のテスラを見つけようとするのが間違いで、次のイーロン・マスクを見つけなければならないのではないかと思うのです。そうでないとニコラやローズタウンのように創業者が金儲けに成功したあと途中で逃げ出すか排除されて事業を減速させ、株主を失望させることになるでしょう。

スティーブ・バーンズはゴールを達成することなく事業から離脱、金儲けには成功する

そしてわたしにとっては、自動車業界における次のイーロン・マスクの1人が若き天才エンジニア、オースティン・ラッセルだと考えています。ルミナーで大きく外すようなことになったら遠慮なくコメント欄かツイッターで笑っていただいて結構です、その時は土下座して反省したいと思います。逆にルミナーが大きく羽ばたき儲かったら、ルミナー長者の皆さんにドンペリでもごちそうします。

次回はNIOXiaopengなどの中華勢を取り上げてみたいと思います。

→資金不足のローズタウンに救いはある?へ

→資金不足のローズタウンに救いはある?その2へ

4 thoughts on “資金不足のローズタウンに救いはある?その3”
  1. 私も以前ローズタウンの保有者でした。その頃は期待していましたが、そもそもまだ1台も生産していないということに漠然とした不安があり即座に売却しました。まさかこんなことになるとは。。
    オースティンラッセルが世界の脚光を浴びる日を私も楽しみにしています。

    1. なんと、そうだったんですか!売却されたのはおそらく大正解ですね、今や上場廃止の可能性も出てきてますから深刻です。ルミナーはようやく底固めできてきたのでこっからの押し上げ楽しみです!

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