ニコラNasdaq:NKLA)という自動車メーカーについて語るには

  • 創業者のトレバー・ミルトン
  • EVなのかFCEVなのか
  • 詐欺問題

この3つを語らないわけにはいかないでしょう。いいとか悪いではなくアメリカって面白い国ですよね。日本でもITバブル期にはカリスマ創業者が何人も現れ非常に見どころのある発展と衰退を繰り広げたものですが、個人的には今や日本のベンチャーに夢はあまりないように感じます(かつて起きたような大きな問題も少ないが)。起業家がいないわけではないと思うのですが日本の風土がベンチャーにはなかなか厳しすぎますよね。

創業者のトレバー・ミルトン

トレバー・ミルトンTrevor Milton)の現在の肩書は「ニコラの創業者、元会長」です。ミルトンは大学を卒業後ADTというメーカーのセキュリティーアラームの販売代理店を立ち上げうまく売り抜けようとしますが、売却時の嘘がバレて契約書の条項に基づき会社を強制的に買い戻す羽目になります。最終的に売却はしたものの共同パートナーに売却金額を不当に低く見せていたということで今も恨まれているようです。

次に立ち上げたのが中古車販売を行うオンライン求人サイト。すでに訳がわからないと思いますが、このサイトの名前はアメリカ人も首を傾げるUPILLAR.COMという意味不明なもの。さらには出会い系サービスまで始めるという滑稽な展開ののち、今から10年前ほどには姿を消したそうです。

その後のミルトンの歩みは、それはもう短いコンテンツでは説明が不可能なほど紆余曲折するのですが、他人の知的所有権を乗っ取り勝手に特許申請したり、口八丁手八丁である株ない株売りつけて資金繰りをしたりとなかなかの要注意人物だと思います。彼のカリスマ性は結果としてニコラを立ち上げIPOまでこぎつけたことで疑いのないところでしょうが、とても次のイーロン・マスクなどと言えるような知識もなければビジョンもなく、とにかく口がうまい営業マン、それがトレバー・ミルトンの真の姿なのでしょう。

EVなのか、FCEVなのか

ニコラは次世代のEVメーカーとして真っ先に名前が上がる企業の一つですが、実は純粋EVだけではなくフューエルセルを採用したFCEVメーカーでもあります。つまり電気自動車水素燃料電池自動車の二本立てメーカーなのです。このあたりがまた解釈に悩むところなのですが依然として注目は集めているようです。そして車両のカテゴリーは現在のところトラックのみとなります。主力となるのはトラックの種別でクラス8と呼ばれ最も大型となるキャブオーバータイプのセミトラックです。キャブオーバーはボンネットのない、エンジンなど動力の上にキャビンがある車両(日本のトラックはほぼ全てこのタイプ)で、セミトラック(アメリカ・カナダの大型トラックといえば通常セミトラックのこと)は後ろが取り外しできる牽引型の車両ということになります。モデルはTREとTWOの2タイプで、TREにはEVとFCEVの2種類が存在しています。

TRE EV: 短距離~中距離向けのバッテリー電気自動車。最大走行距離350マイル、645hp、生産は2021年第4Q。

TRE FCEV: 短距離~中距離向けの燃料電池電気自動車。最大走行距離500マイル、645hp、生産は2023年下半期。

NIKOLA TRE EV/FCEV

TWO: 長距離向け燃料電池電気自動車。最大走行距離900マイル、645hp、生産は2024年。

NIKOLA TWO

FCEV=燃料電池電気自動車とは、酸素と水素の化学反応により生じる燃料電池の電気エネルギーを使ってモーターを駆動させるという原理になります。トヨタなども力を入れている非常にクリーンな技術であり期待されるのですが、水素ステーションのインフラ整備が非常に大きな課題となっており、ニコラは水素ステーションの拡充にも力を入れてきました。下の画像で車両右側にあるのが水素を補給する70MPA(メガパスカル)圧の急速水素チャージャー。

Fast 70 MPA Hydrogen Dispenser

このとおり、EV車もありFCEV車もあるところがニコラの抜け目ないところなのか、あるいはできるはずのないことに挑もうとしているのか、はたまたミルトンお得意の大風呂敷なのかはなんとも言えませんが、見た目に完成度の高いデモ車両が存在しているのは説得力があるように思えます。いずれもテスラほどではないにせよデザインは近未来風で、乗り込む際に電動でステップが階段状に出現するギミックなどそれっぽい雰囲気ですし、インテリアについては大変良くできているのは確かです。ところが、実はこれらの車両はニコラが製造するのではありません。車両製造受託の専門会社に外注することになっているのです。しかも公表されている情報ではまだ製造委託先が決まっていません。これは一体どういうことなのでしょうか。

そして大型トラック以外の目玉はレジャー用のピックアップトラック、Badger=バッジャーでした

Badger: BEV/FCEVでそれぞれ300マイル、最大走行距離600マイル、最大906hp、生産はおそらく永遠に未定。

ピックアップトラックのバッジャー

いつ生産されるかもわからないBadgerでしたが、去年6月からは一時予約を受け付けていました。前述のようなミルトンの過去を知る人で果たして予約金を払って買いたいと思う人がいたのでしょうか、わたしも試しに予約してみたかったところですがそれはもうできません。というのも、昨年9月に発表されたGMが生産を受託しその代わりニコラに大規模な投資を行うという重要なOEMパートナーシップ契約がキャンセルされ、既にバッジャーの開発は終了することになったからです。

この車、やや丸みを帯びて若干ひと昔前までのアメリカンデザイン風であるのを除けば全体のデザインはとても良く、アメリカでなら乗ってみたいなと思えるモデルだと思います。荷台前のドアの上端部分での切り替え処理がなかなかユニークでうまいなと思いますし、LEDヘッドライトの近未来感もなかなかのもの。ニコラ・バッジャーのロゴはサイバーパンクな香りで車両のデザイン共々見せるためのセンスはいいと思いますが、見せるだけで終わってしまい、これが現実にはもはや過去のものになったとはなかなかビジネスは残酷ですね。

そして表面化した詐欺問題

2018~2019年にかけて、既にトレバー・ミルトンの語るニコラの未来に疑いの声が上がるようになっていました。そこでニコラはサードパーティーによる動画「ニコラ・ワンインモーション」をリリースします。

ところが空売り専門の投資グループであるヒンデンブルグリサーチがこの巧妙な仕掛けを暴きます。彼らはGoogleマップでワンインモーションの撮影場所を探し出し、撮影された場所が勾配になっていてトラックはわずか50km/hを超えるスピードで丘を転がり落ちていただけだということが明らかになりました。これに対しニコラ側は「動力で動いていたなどとは言っていない」という子供じみた言い訳に終止し、ニコラに対する疑惑が大きく高まりました。

Hindenburg Researchによるニコラについての告発文

これを読むと、トレバー・ミルトンの数々の嘘はこの規模の公開企業では稀なケースである、トレバー・ミルトンは独自の技術を保有していると主張していたがそれも嘘、自社で生産しているというデモカーもサードパーティー製であり嘘、ボッシュに製造委託していたという話も嘘、安価な水素を仕入れられると言っていたがその生産者もニコラの主張する価格では水素を販売しておらず嘘、とにかく嘘・嘘・嘘のオンパレード。もちろんこれはヒンデンブルグ側の主張であり、ニコラの言い分もあるでしょうがそれにしても指摘されていることが多すぎます。

トレバー・ミルトンは結果的に昨年9月会長の職を辞任しましたが、SECと法務省の捜査の対象になったのに加え、出所不明の性的暴行疑惑が次々に沸き起こり身辺はきな臭いどころか大炎上してしまいました。

ニコラに投資すべきか

特定の株を勧めたり、逆に勧めないとしたりすることは本意ではないのですが、強いて言うならわたしはニコラには絶対に投資しません。会社をけなすのは今も働いている関係者に気の毒ですが、トレバー・ミルトンは明らかに巧妙なやり方で財を成した疑惑の多い富豪であり、このような株への投資はごく一部の関係者だけを儲けさせるギャンブルだと思います。彼は株価が下落する中、今年の3月末に13.89ドルで350万株を売却して5000万ドル近くを手にしました。アリゾナ州フェニックスに大邸宅を、ユタ州にとんでもなく広大な牧場を所有していますが、まだまだ現金を潤沢に保有しているのに加え依然としてニコラの株式を20%以上持つ筆頭株主でもあります。

なによりも、起業したミルトン自身にニコラの価値を裏付けるものがほとんどなかったということが問題だと思います。ファブレスのニコラがかつてミルトンの経営のもとでやってきたことは、技術力と資金力を持ち過去何十年も車両を生産してきた既存の自動車メーカーならどこでもできてしまうのではないかと思いますがいかがでしょうか。補足ですが、現在のCEOマーク・ラッセルについては金属加工業のワージントンインダストリーズNYSE:WOR)、アルミ関連のアルコアNYSE:AA)などのキャリアを持つ正当な経営者、ビジネスマンのようですね。

2020年6月8日に93.99ドルの高値をつけたあと、NKLA株はその高値からほぼ10分の1である9.37ドルの安値まで下落し、今日の市場オープン前の価格では最安値の2倍近く、17.21ドルまで回復しています。

次回はローズタウン・モーターズを取り上げてみようと思います。CEOのスティーブ・バーンズが辞任した直後でタイミングがいいのやら悪いのやら。皆さんの予想通りこちらも辛口の内容になると思います。

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